ベトナム投資環境概要と日系企業進出状況
ベトナム投資環境
市場の開放
1986年:ドイモイ(刷新)政策(社会主義計画経済の行き詰まりから、対外開放政策、市場経済メカニズムを導入)
1994年:米国が対越経済制裁を解除(第一次投資ブーム)
2007年:WTOに加盟(第二次投資ブーム)
2009年:流通及び販売の国内市場を開放へ
2010年:酒類販売の国内市場も開放
安定した政治体制および社会体制
共産党の一党独裁体制で政変もなく安定しています。2006年4月以来、共産党書記長、大統領、首相の3役は不変でしたが、2011年1月の党大会においてノン・ドゥック・マイン書記長(少数民族出身、53の民族あり)に代わりグエン・フーチョン書記長が選任されました。また、2011年5月の総選挙においてグエン・ミン・チェット氏に代わり、チュオン・タン・サン政治局兼書記局員が大統領に選出されています。グエン・タン・ズン首相は続投です。通常、国会では一応の形式的審議はあっても議案は可決されてきたため、2010年6月の新幹線案件の否決は驚きをもって受け止められています(東海道新幹線の総工費が3,800億円、1960年のGNPの2.4%、世銀からの借金も総工費の7.6%ほど。対してベトナムは560億ドルの総工費をほとんど借款予定、GDPの6割に達する)。なお、80%以上の国民が仏教徒であり、事業運営上も宗教的な制約がない点も特徴です。治安も周辺諸国に比べれば概ね良好です。
優遇税制
法人税の標準税率は25%です。以前は輸出加工区への進出へは優遇税制が採られていましたが、現在は撤廃されており、輸出加工型の企業進出の足枷の一つになってきています。ベトナム政府としてはローテクの工場誘致ではなく、ハイテク産業誘致へと軸足が移ってきていることの表れでもあります。

優遇条件一覧
事業内容及び立地 税率 優遇期間 優遇内容
社会的・経済的に困難な地域への投資 20% 10年 2年免税、
4年半減
特に社会的・経済的に困難な地域への投資、ハイテク、科学研究などの分野への投資 10% 15年 4年免税、
9年半減
教育、医療、文化などの活動 10% 全期間 4年免税、
5年半減
その他税制(営業許可税、個人所得税)
営業許可税は、法人所得の有無に関わらず毎年一定の税額が法人に課されます。定款記載の資本額に基づき税額が定められています。

資本額 税額
20億VND(約740万円)未満 100万VND(約3,700円)
20億VND(約740万円)以上50億VND(約1,850万円)未満 150万VND(約5,500円)
50億(約1,850万円)VND以上100億VND(約3,700万円)以下 200万VND(約7,400円)
100億VND(約3,700万円)超 300万VND(約11,100円)

個人所得税は、居住者へは5%から35%の累進税が課されます。月額所得が40万円ですとおよそ25%の実効税率、80万円ですと30%ほどとなります。非居住者へは一律20%の課税となります。

*為替レート269.39VND/JPY(2011年11月1日)

日越経済連携協定:JVEPA (Economic Partnership Agreement)
2009年10月に発効。関税や外資規制の撤廃だけでなく、人的交流、各分野での協力をもとに経済関係の強化を図る内容となっています。10年以内に貿易額ベース9割の関税が撤廃となりますので、自動車や家電等の生産に必要な材料の調達のコスト削減が推進されます。
低い人件費
ベトナムに投資する大きな理由の一つは、安価な労働力を活用することで生産コストを抑えた企業活動が可能になることです。10年前は安価な労働力を求めて多くの日系企業は中国に進出をしましたが、主に沿海地域の発展と共に人件費が上昇し中国の優位性が低下しました。相対的にベトナムの人件費は突出して安価であり、多くの企業を引き付ける要因となっています。最低賃金は地場企業と外資企業では異なっていましたが、2011年10月1日より統一され、地域別に140万ドン~200万ドン(約5,200円~7,400円)となっています(2011年現在)。一方労働力の質についても、平均年齢が若く識字率が95%を超えており勤勉なことから生産性が高いといわれています。国民性も穏やかで組織に従うという日本人気質と共通する部分も見受けられますが、集団気質により違法ストも発生しますので注意が必要です。
賃金上昇および人材の不足
ベトナムは安価な労働力で比較優位を保ち外国投資を呼び込んでいましたが、賃金が上昇しており、優位性が相対的に低下する可能性が出てきました。賃金上昇の理由の一つとしてインフレが挙げられます。ベトナムでは2000年代後半からのインフレに伴い平均賃金も年々上昇しており、他国と比較するとまだ低水準ではありますが中長期で見た場合、大きく懸念されます。また、労働者の定着率の低さも懸念事項の一つといえますし、全国で267ヶ所に及び工業団地が整備されてきており(2011年10月現在)、ホーチミンやハノイ近郊に出稼ぎに出なくとも地元で働く機会が増えてきていることも人材不足に拍車をかけています。
インフラ状況
ベトナムでは道路の未整備や電力不足が問題となっており速やかな開発が望まれています。 今年に入り高速道路が開通するなど、幹線道路は少しずつ整備されてきていますが、基本的に産業道路と生活道路を共用しているため、特に通勤時間になると道路はバイクで溢れ渋滞を引き起こしています。また電力は慢性的に不足しており、停電が頻繁で工場の操業に影響を及ぼしています。電力の需要に対して供給が追いついていないのが原因で、病院や行政機関を除く場所での計画停電も珍しくありません。今年に入りベトナム北部で大規模な電力発電プロジェクトが起工されましたが、電力不足解消にはまだ時間を必要とします。また、部品の現地調達が困難な点、中間マネージメント層が足りない点や、役所窓口が制度変更などを理解していない点などもデメリットとしてあげられます。
加速する経済成長
1990年代半ばには成長率が9%を超え、2000年~2007年までは常に7~8%前後の成長率で推移しています。2008年は6.2%、2009年は5.3%、2010年は6.8%と若干の落ち込みはありますが、他の東南アジア諸国に比べリーマンショックの影響が軽微である状況がうかがえます。2011年上半期の成長率は5.57%です。

*地域別一人当たりGDPトップ5【出所】GSO 2007


  1位 バリアブンタウ省(ホーチミン市南東部に隣接):7,847米ドル
  2位 ホーチミン市:2,249米ドル
  3位 ハノイ市:2043米ドル
  4位 ビンズン省(ホーチミン市北部に隣接):1,381米ドル
  5位 ドンナイ省(ホーチミン市北東部に隣接):1,186米ドル

トップ5中、ハノイ以外はホーチミン市近郊の南部に位置しており、ベトナム市場向けの販売ではやはり南部地域に一日の長がある。
インフレ率
2000年代後半は、ほぼ10%前後のインフレ率で推移しており、2010年度は11.75%です。電気、水、ガソリンなど公共料金の価格調整、米の輸出、金利などへの規制を通じてインフレを抑えるための対策が講じられていますが、2011年は19.0%と予想(2011年9月IMFレポート)されています。
為替
2010年8月18日、対米ドルの基準為替レートが18,544VNDから18,932VNDへと約2.1%切り下げられたのに続き、2011年2月11日にはさらに20,693 VNDへと引き下げられ、実質9.3%の大幅切り下げとなりました。2011年11月1日現在は20,803VNDとなっています。基準為替レートを挟んで±1%の変動内での取引が認められていますが、2011年11月月1日現在はレンジ下限の21,011 VND /米ドル近辺へ下落しています。
なお、経常収支赤字の対GDPは10%程度にまで達してきています。これは部品産業の集積が進んでいないため、設備投資など内需が回復する際には、中間財や資本財などの輸入が増加するからです。外貨不足のため、銀行で米ドルを購入できないこともありますので、国外決済のある企業は外貨の事前準備も必要となります。
オフィス、住環境および医療機関
ホーチミン市1区のオフィス賃貸料は一ヶ月25米ドル~40米ドル/平米になります。また、1区のサービスアーパートメントは一ヶ月1500米ドル~4000米ドル、7区ですと800米ドル~2500米ドルとなります。教育施設ですが、ホーチミン日本人学校は家族連れの駐在者が多く住むエリアである7区PMHに位置しており、290名(2011年4月現在)の生徒が通っています。日本人幼稚園は2区及びフーニュン区に所在しています。医療機関は、日本人医師が勤務する病院や歯科医院もありますので安心ですが、医療設備などは近隣諸国に比べ劣りますので緊急時はタイやシンガポールに搬送されます。
日系企業進出状況
時系列
1995年:第一次投資ブーム(ベトナムのアセアンへの加盟、円高によるベトナムへの生産シフト)
1997年:アジア通貨危機により投資の減退
2005年:第二次投資ブーム(2003年に投資環境の改善を目的とする首相間合意である日越共同イニシアティブ、2007年のベトナムのWTO加盟が拍車)
2008年:リーマンショック後に投資が激減(日系企業投資額は外国投資全体の約1割程度であるが、2009年度に関しては全体の0.8%であり、日本からの投資のみが極端に落ち込んでいることが伺えます)
2010年:日系企業の投資意欲も持ち直し、外国投資額全体の12%、約20億米ドルの投資額となっています。
進出企業数及び業種
日本商工会の会員数はホーチミン533社(2011年11月1日現在)、ハノイ418社(2011年9月30日現在)となります。外国投資庁によると、2011年6月現在、ベトナム全土にて1,532件の日系企業の直接投資プロジェクトが登録されています。日本外務省によると在留邦人数は2010年10月1日現在で8,543人に及ぶ模様です(HCM:4,256人、ハノイ:3,172人)。なお、ホーチミン近郊のみで韓国人は7万人、台湾人は4万人が居住している模様です。業種別で見ると電子機器や精密機械をはじめとする製造業が全体の8割を占めており、製造拠点又は輸出加工基地としての進出パターンが多くみられます。
ベトナム北部への進出
ベトナム北部への日系企業の進出パターンとしては、華南地区からの進出、または大手セットメーカーへの部品供給の為の進出が挙げられます。一般工職の人件費も南部地域よりも若干低く抑えられることも北部進出の理由として挙げられます。
ベトナム南部への進出
ホーチミンを中心とした南部への進出は、中小企業や独立系メーカーが中心となってきました。但し、直近では、ベトナム南部の人件費も華南地区に比べれば割り安であることから南部地域への進出検討をしている企業もでてきています。また、北部の人材不足により管理職やスタッフクラスの給与水準は南部に比べ2割ほど高くなってきています。資材調達や物流コストが低いことも南部への進出のメリットとなります。
直近の進出地域の特徴
メコンデルタへの道路網の整備により、ホーチミン進出済み企業のメコンデルタエリアへの進出も縫製業を中心に見られるようになってきました。さらに従来ホーチミン近郊ですとビンズン省、ドンナイ省への工場進出が主流でしたが、ホーチミン南西部のロンアン省への道路も整備されてきた為、サッポロビールや住友林業(両社とも2010年建設着工)などはロンアン省への進出を決めています。2011年に入り、ロンアン省のレンタル工場への進出が中小企業を中心に増加傾向です。ホーチミン近郊では一般職クラスの人材確保が懸念されることもロンアン省への進出理由だと思われます。
輸出加工基地からの転換
リーマンショック後は、輸出加工型の進出形態は激減しており、プラントや橋梁、新幹線、地下鉄、水道事業などのインフラ関係への投資や国内消費関連の外食産業、小売事業への参入(ファミリーマート、高島屋、イーオン、三越など)を検討する企業が増えてきています。
内販企業への許認可の実情
2009年度から小売市場への外資参入が認められていますが、実際には認可が下りにくい状況が続いております。従来型の製造業などのライセンス取得は通常2~3ヶ月もあれば可能ですが、小売ライセンスに関しては申請から六ヶ月から1年後に発給されるケースなども散見しており、申請した企業全てに認可が下りている状況ではありません。輸入・卸売りまでは認可されたが、小売までは認可されないケースなども見受けられます。
輸出加工基地からの転換
リーマンショック後は、輸出加工型の進出形態は激減しており、プラントや橋梁、新幹線、地下鉄、水道事業などのインフラ関係への投資や国内消費関連の外食産業、小売事業への参入(ファミリーマート、高島屋、イーオン、三越など)を検討する企業が増えてきています。
日系企業の課題
投資への慎重さから、韓国(ロッテマート、ダイヤモンドプラザデパートメントストアー、インターコンチネンタル・クンホー・アシアナプラザ)、台湾系企業(7区PMH新興住宅地開発)に出遅れている。東南アジア随一の消費意欲の高い(マスターカード調査より)8600万人の消費市場を攻略するためにどのように進出していくかが今後の課題になると思われます。